【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
<本日の内容>
1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~精皆勤手当
2 判例・裁判例ーハマキョウレックス(差戻審)事件
3 同一労働同一賃金ガイドライン
1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~精皆勤手当
本日は精皆勤手当について検討します。
精皆勤手当は,一定日数以上出勤したことの対償として支給されるもので,①その性質・目的は,特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務することで,業務の円滑な遂行等に寄与したことへの報償であり,②特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務したかどうかが主な考慮要素となります。したがって,③同じ業務,同じ勤務日・勤務時間で無欠勤又は少ない欠勤の正規労働者と短時間・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければなりません(水町・前掲104頁)。同一労働同一賃金ガイドライン(第三の三(四))では,特定の業務において無欠勤または少ない欠勤で勤務する労働者に支給する精皆勤手当についてですが,「通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。」としています。
会社としてよく考えなければならないのは,精皆勤手当を支給することにより労働者の出勤を奨励することで,会社の業務のどの部分の円滑な遂行を特に確保しようとしているかということです。それが人員の代替が困難な業務であることもありますし,シフト勤務など労働者の配置を分けているために人員の確保が困難となっていることもあります。そして,会社として格別労働者の出勤を確保しなければならない業務であることが説明でき,その業務に就くのが正規労働者だけであれば,精皆勤手当の支給対象をそうした正規労働者のみとすることは不合理ではありません。
2 判例・裁判例ーハマキョウレックス(差戻審)事件
この点に関連し,改正前の労働契約法20条をめぐる判例では,運送事業を行う会社が,正規労働者にのみ精皆勤手当を支給していたことが不合理ではないかと争われました。判決では,精皆勤手当は,会社が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであるとされています。そこで円滑遂行確保の必要がいわれているのは,運送業務のうちの特別な勤務といった限定はつけられていませんから,トラック運転手として正規労働者と職務の内容が異ならない有期雇用労働者にも精皆勤手当を支給しなければ不合理となると判示されています(ハマキョウレックス(差戻審)事件・最二小判平成30・6・1民集72巻2号88頁)。何のための精皆勤手当なのか,見直してみましょう。
3 同一労働同一賃金ガイドライン
同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例として,「A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。」とあります。
待遇の均衡ということでは,一読それなりに理解できる例であるような気もします。しかし,そもそも,正規労働者であれ有期雇用労働者であれ,欠勤をマイナス査定しない(例えば賞与の考課。)ということは実際はないように思います。また,精皆勤手当は,特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務することで,業務の円滑な遂行等に寄与したことへの報償として支給されるものです。したがって,支給条件に合致する出勤により会社の業務が円滑に遂行されたのであれば精皆勤手当は支給すべきであり,欠勤のマイナス査定の有無はその判断に関係しないようにも思います。みなさんはどう思われますでしょうか。
★同一労働同一賃金について,こちらでさらに詳しく解説しています。
更新日 2020年9月30日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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