【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
★同一労働同一賃金についてまとめた記事は以下を参照ください。
<本日の内容>
1 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件
2 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件
3 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決
1 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件
先日のブログで,病気休職についてのパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断について検討しました。
病気休職についてではありませんが,病気休暇の支給・不支給と有給・無給が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案があり,参考となります(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)。以前,年末年始手当を検討する際に紹介した平成30年東京高裁判決です。
再確認しますと,会社は郵便事業を扱っており,訴えたのは時給制の有期雇用労働者です。有期雇用労働者らは,会社の正規労働者全体ではなく,会社の新人事制度でいう新一般職(窓口営業,郵便内務,郵便外務又は各種事務等の標準的な業務に従事する者であって,役職層への登用はなく,勤務地は原則として転居を伴う転勤がない範囲とするもの。)という正規労働者を比較対象としています。
この会社が支給する私傷病の病気休暇の内容は,正規労働者には日数の制限はなく有給(一定期間を超えると基本給の月額及び調整手当を半減して支給。)での付与,時給制契約社員には1年度に10日で無給での付与となっていました。
判決で,この病気休暇の趣旨は,労働者の健康保持のため,私傷病により勤務できなくなった場合に,療養に専念させるための制度であるとしています。その上で,長期雇用を前提とする正規労働者と契約期間が限定され,短時間勤務の者も含まれる時給制契約社員とで付与日数に相違があるのは不合理であると評価することはできないとしています。もっとも,正規労働者は有給,時給制契約社員は無給としている点は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。
2 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件
上記の会社を,別の有期雇用労働者が改正前の労働契約法20条を根拠に訴えた事案も以前紹介しました(日本郵便(非正規格差)事件・大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)。
この平成31年大阪高裁判決でも, 病気休暇の支給・不支給と有給・無給が争われました。こちらも再確認しておくと,訴えた労働者は,平成30年東京高裁判決と同じ時給制契約社員の人もいれば,月給制契約社員の人もいましたが,有期雇用労働者である点は同じです。労働条件の比較の対象とされたのは,会社の新人事制度でいう新一般職という正規労働者で,この点も平成30年東京高裁判決と同じです。
判決では,病気休暇の趣旨は,「職員が私傷病になった場合にも安んじて療養に専念させ,健康体に回復させることによって公務能率の維持向上に資することにある」としています。その上で,年末年始休暇についての判断と同様,会社を訴えた有期雇用労働者らと正規労働者とで病気休暇の期間やその間有給とするか否かについて相違が存在することは,直ちに不合理なものと評価することはできない,ただ,有期雇用労働契約を反復して更新し,契約期間が通算5年を超える有期雇用労働者については, 病気休暇の期間やその間有給とするか否かについて相違について正規労働者と相違を設けることは不合理であるとしています。
3 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決
病気休職の期間につき,平成30年東京高裁判決では正規労働者と有期雇用労働者とで病気休職の期間の違いを不合理とせず,平成31年大阪高裁判決は通算5年を超えない有期雇用労働者については病気休職の期間の違いを不合理としない一方で, 通算5年を超える有期雇用労働者については正規労働者と病気休職の期間の相違を設けることは不合理としています。
判断は分かれたかに見えますが, 平成30年東京高裁判決では,契約期間が通算5年を超えた時給制契約社員による,1年度に10日未満の私傷病による欠勤や年次有給休暇取得が損害と認められたのであって,この時給制契約社員に関していえば,平成30年東京高裁判決でも平成31年大阪高裁判決でも,結論は異ならない可能性が高いと思われます。
改めて,両判決は同一労働同一賃金を理解するよい教材であると思います。比較していろいろと考えを巡らせてみてください。
更新日 2020年9月9日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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