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<本日の内容>
1 除外賃金の「賞与」の意味
2 年俸制における除外賃金
3 判例・裁判例ーシステムワークス事件
1 除外賃金の「賞与」の意味
労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条では,①家族手当,②通勤手当,③別居手当,④子女教育手当,⑤住宅手当,⑥臨時に支払われた賃金,⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は,除外賃金とされ,時間外労働の割増賃金の基礎賃金に含めないとされています。
このうちの⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金には,賞与,1か月を超える期間の事情によって支給される精勤手当,勤続手当,奨励加給・能率手当(労働基準法施行規則8条)などがあるとされています(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)689頁)。
もっとも,ここでいう「賞与」とは,定期又は臨時に,原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって,その支給額があらかじめ確定されていないものをいい,定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは,名称を問わず,ここでの「賞与」とはみなされずに除外賃金とはされません(昭和22・9・13発基17号)。
2 年俸制における除外賃金
年俸制は,「賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度」と整理することができるものです(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)436頁)。そして,同じ年俸制でも,毎月の賃金のみならず賞与をも年俸に組み替えるか,諸手当はどの程度残すかなどで違ってくることがあります(菅野・前掲436頁)。
そうした年俸制のうち,年度当初に年俸額が決定されその一部が賞与として支給される場合には,賞与の支給額があらかじめ確定していますので,年俸のうちの賞与部分を除外賃金として時間外労働の割増賃金の基礎賃金に含めないとすることはできないとされています(平成12・3・8基収78号)。つまり,この場合は年俸額全体が時間外労働の割増賃金の基礎賃金となります。
他方,年俸制といっても賞与を年俸に組み込まないもののときは,その賞与は⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金にあたる「賞与」として除外賃金とされる可能性が出てきます。
3 判例・裁判例ーシステムワークス事件
年俸制における賞与部分の除外賃金該当性が争われた事例が,システムワークス事件(大阪地判平成14・10・25労判844号79頁)です。未払残業代を請求されたのはシステム開発を業とする株式会社です
システムワークスの就業規則のうち,争点に関係する部分だけ取り上げると以下のとおりでした。
(給与の種類 42条)
給与の種類は,次のとおりとする。
(ア)年俸制給与
(イ)月給制給与
(年俸制給与の構成 44条)
(ア)基準内給与 年俸の毎月支給額
(イ)基準外給与 通勤手当
(超過労働手当 48条)
超過労働手当は次の算式により支給する。
(略)
(年俸制適用者の時間外労働手当 49条)
年俸制適用者については,48条の定めにかかわらず,時間外労働手当は支給しない。
(年俸制給与の支払形態 53条)
年俸制給与の支払形態は,年俸額の15分の1を毎月支給し,15分の1.5を7月と12月に支給する。
(賞与 58条)
(ア)賞与は,原則として毎年6月1日及び12月1日に在籍する従業員に対し,会社の業績等を勘案して7月,12月に支給する。
(イ)前項の賞与の額は,従業員の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。
(略)
未払残業代を請求した労働者が年俸制であったか否かもこの事例では争われましたが,判決では,未払残業代を請求した労働者の賃金は当初から月額18万円で年間においてその15か月分を支給する年俸制であったと認定されています。
その上で,7月と12月に支給された金員については,実際の支給額はそれぞれ上記就業規則53条のとおりに計算された金額ではなかったのですが,判決は,上記就業規則53条を引用し,年俸制給与の支払形態は,年俸額の15分の1を毎月支給し,15分の1.5を7月と12月に支給するとされ,7月と12月に付加して支払われる金員についても,支給時期及び支給金額が予め確定しており,賞与又は賞与に準ずる性格を有するとは認め難く,毎月支給される金員と性質は異ならないと考えられるのであるから,労働基準法施行規則21条4号にいう「臨時に支払われた賃金」又は同条5号にいう「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するとはいえないとしました。
更新日 2020年9月23日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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