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<本日の内容>
1 高度プロフェッショナル制度の導入
2 高度プロフェッショナル制度の概要
3 高度プロフェッショナル制度の詳細①
4 高度プロフェッショナル制度の詳細②
5 高度プロフェッショナル制度の詳細③
6 高度プロフェッショナル制度の詳細④
7 高度プロフェッショナル制度の実施状況の報告
8 対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針
9 医師による面接指導
10 厚生労働省作成のパンフレット等
1 高度プロフェッショナル制度の導入
2018(平成30)年働き方改革関連法によって導入された新しいタイプの労働基準法上の労働時間等の規制の適用除外が,特定高度専門業務・成果型労働制,いわゆる「高度プロフェッショナル制度」です(労働基準法41条の2)。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者については,労働基準法第4章の労働時間,休憩,休日の規定のみならず,深夜労働の割増賃金の規定も適用除外とされます(労働基準法41条の2)。深夜労働に対する割増賃金も適用除外とされるのが管理監督者,監視・断続的労働従事者等とは異なります(労働基準法41条)。
2 高度プロフェッショナル制度の概要
高度プロフェッショナル制度は,
①労使委員会が設置された事業場において,労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により法定事項に関する決議をし,
②使用者が①の決議を行政官庁に届け出た場合には,
③対象労働者であって書面その他の方法によりその同意を得た者を,
④当該事業場における対象業務に就かせたときに,
上述のとおり, 対象労働者につき,労働基準法第4章の労働時間,休憩,休日の規定および深夜労働の割増賃金の規定を適用除外とします。
3 高度プロフェッショナル制度の詳細①
①の労使委員会の議決を要する法定事項は次のア~コのとおりです(分類の仕方について,菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)552~556頁を参照しています。)。
ア 対象業務(労働基準法41条の2第1項1号)
高度の専門的知識等を必要とし,その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち,労働者に就かせることとする業務を定めます。
労働基準法施行規則34条の2第3項で,上述の業務が5つ掲げられています。
・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務(1号)
・資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち,投資判断に基づく試算運用の業務,投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務(2号)
・有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析,評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(3号)
・顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務(4号)
・新たな技術,商品又は役務の研究開発の業務(5号)
イ 対象労働者(2号)
2号イ・ロに該当する労働者であって,対象業務に就かせようとするものの範囲を定めます。この範囲に属する労働者を「対象労働者」といいます。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は,すなわち,対象業務に就かせる労働者であって(2号柱書),使用者との書面その他の方法による合意に基づき職務が明確に定められており(2号イ),使用者から支払われると見込まれる年間賃金額が基準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額(1075万円(労働基準法施行規則34条の2第6項))以上である者,となります。
2号イの合意は,業務の内容,責任の程度,職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たって求められる水準を明らかにした書面に対象労働者の署名を受けてその書面を交付するか,対象労働者が希望した場合にはそれらの記載事項を記録した電磁的記録の提供により行うとされています(労働基準法施行規則34条の2第4項)。
ウ 健康管理時間の把握(3号)
対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために対象労働者が事業場内にいた時間(労使員会が休憩時間その他対象労働者が労働していない時間を除くことを決議したときは,当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(「健康管理時間」といいます。)を厚生労働省令で定める方法により把握する措置を決議で定めるところにより使用者が講ずることを定めます。
「厚生労働省令で定める方法」とは,タイムカードによる記録,パーソナルコンピューター等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法で,事業場外において労働した場合であってやむを得ない理由があるときは,自己申告によることができるとされています(労働基準法施行規則34条の2第8項)。
エ 休日の確保(4号)
対象業務に従事する対象労働者に対し,1年間を通104日以上,かつ,4週間を通じ4日以上の休日を決議及び就業規則等で定めるところにより使用者が与えることを定めます。
オ 働きすぎ防止措置(5号)
対象業務に従事する対象労働者に対し,次のいずれかの措置を決議及び就業規則等で定めるところにより使用者が講ずることを定めます。
・11時間以上の休息時間(勤務間インターバル)の確保,かつ,深夜業は1か月4回以内とする(イ,労働基準法施行規則34条の2第9項・10項)
・週40時間を超える健康管理時間を1か月100時間以内または3か月240時間以内とする(ロ,労働基準法施行規則34条の2第11項))
・1年に1回以上2週間の継続した休日(労働者が請求した場合1年に2回以上1週間の継続した休日)の付与(ハ)
・週40時間を超える健康管理時間が1か月当たり80時間を超え,又は対象労働者からの申出があったときの臨時の健康診断の実施(ニ,労働基準法施行規則34条の2第12項・13項))
カ 健康・福祉確保措置(6号)
対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって,当該対象労働者に対する有給休暇の付与,健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち決議で定めるものを使用者が講ずることを定めます。
「その他の厚生労働省令で定める措置」とは,労働基準法施行規則34条の2第14項で次のとおりとされています。
・上述のオの措置であって,オにより使用者が講ずることとした措置以外のもの(1号)
・健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し医師による面接指導を行うこと(2号)
・対象労働者の勤務状況及びその健康状況に応じて,代償休日又は特別な休暇を付与すること(3号)
・対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること(4号)
・対象労働者の勤務状況及びその健康状態を把握し,必要な場合には適切な部署に配置転換すること(5号)
・産業医等による助言若しくは指導を受け,又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること(6号)
キ 同意の撤回手続(7号)
対象労働者による③の同意の撤回手続を定めます。
ク 苦情処理(8号)
対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を決議で定めるところにより使用者が講ずることを定めます。
ケ 不利益取扱いの禁止(9号)
使用者は,③の同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めます。
コ その他の決議事項(10号)
労働基準法施行規則34条の2第15項で,次の事項を定めるとされています。
・決議の有効期間の定め及び決議は再決議をしない限り更新されないこと(1号)
・労使委員会の開催頻度及び開催時期(2号)
・常時50人未満の労働者を使用する事業場である場合には,労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること(3号)
・各種記録を決議の有効期間およびその満了後3年間保存しなければならないこと(4号)
4 高度プロフェッショナル制度の詳細②
②の届出は,所定の様式により,所轄労働基準監督署長にしなければならないとされています(労働基準法施行規則34条の2第1項)。
5 高度プロフェッショナル制度の詳細③
③の同意は,同意により労働基準法第4章で定める労働時間,休憩,休日および深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこととなること,同意の対象期間,同意の対象期間中に支払われると見込まれる賃金の額を明らかにした書面に対象労働者の署名を受けてその書面を交付するか,対象労働者が希望した場合にはそれらの記載事項を記録した電磁的記録の提供により行うとされています(労働基準法施行規則34条の2第2項)。
6 高度プロフェッショナル制度の詳細④
④の対象業務とは,①ア(1号)で定めた業務のことです。
7 高度プロフェッショナル制度の実施状況の報告
決議の届出をした使用者は,決議が行われた日から起算して6か月以内ごとに,上述の健康管理時間の状況,①エ~カで規定する措置の実施状況を,所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません(労働基準法41条の2第2項,労働基準法施行規則34条の2の2)。
8 対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針
高度プロフェッショナル制度については,対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針が定められています(「労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平31・3・25厚労告88号))(労働基準法41条の2第3項,38条の4第3項)。この指針は,労使委員会が決議する事項について具体的に明らかにする必要があると認められる事項を規定し,高度プロフェッショナル制度の実施に関して,使用者,労働者等及び労使委員会の委員が留意すべき事項等を定めています。労使委員会の委員は,決議の内容がこの指針に適合したものとなるようにしなければなりません(労働基準法42条の2第4項,指針第一)。
9 医師による面接指導
2018(平成30)年の働き方改革関連法によって,使用者の労働時間適正把握義務が労働安全衛生法に置かれ(労働安全衛生法66条の8の3),医師による面接指導の規定(労働安全衛生法66条の8,66条の8の2)も改正されたことは,以前のブログで説明しました。
働き方改革関連法は,高度プロフェッショナル制度の対象労働者についても,労働安全衛生法に医師による面接指導の規定が置きましたが,高度プロフェッショナル制度の場合,「労働時間」ではなく「健康管理時間」に応じて医師による面接指導も実施されるものとして,上述の医師による面接指導とは別規定としています(労働安全衛生法66条の8の4)。
そして,同規定は,週40時間を超える健康管理時間が月100時間を超える場合,医師による面接指導を行うことが事業者に罰則付きで義務付けています(労働安全規則52条の4第1項,労働安全衛生法120条)。
10 厚生労働省作成のパンフレット等
厚生労働省が,高度プロフェッショナル制度に関するパンフレット等を作成していますので,そちらも案内します。
【パンフレット】
【リーフレット】
2020年7月29日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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